3/5J庭新刊『Melty,kiss and make love』

3回目のバレンタイン。

周平は佐和紀を伴って熱海の定宿へ…。今回は、こっそりランジェリーを用意したようですよ…。J庭新刊から、バレンタインっぽいところを抜粋でお届けします。

ハッピーバレンタイン!


 

「あ、お酒……」
居間に続く襖を開け、佐和紀が足を止める。周平を振り向いた瞳は、もう岡村を忘れていた。
「シャンパンだ」
答えると、居間へ入った佐和紀がこたつの上を見た。
レース編みの上に、シャンパンクーラーと生チョコが包みが置かれ、周平が贈ったピンクのバラの花びらが適度に散らされている。もうひとつのプレゼントは、寝室にでも置かれているのだろう。
あえて探すことはせず、周平は手早くシャンパンを栓を抜く。グラスに注いでいる間に、佐和紀が生チョコの包みを開けた。
「ハッピーバレンタイン」
グラスをひとつ手渡し、わざと気障に耳元でささやき、柔らかく息を吹きかけた。
「ん……」
恥ずかしがるほどウブじゃないくせに、とろけるような目をした佐和紀は言葉もなくうなずく。ゆっくりとしたまばたきに、うっとりとした雰囲気を感じ、周平は思わず頬をゆるめた。
シャンパンを口に含み、佐和紀のあご先を指で促す。口移しの一口をこくりと飲み下し、男泣かせな人妻はあどけなくはにかむ。無意識に罪作りだ。
悪態をつくときのガラの悪さと、この貞淑さの両立が佐和紀であり、たまらないバランスで整合性が保たれている。
「シンのことは、もういいのか」
「……なに?」
聞こえないふりじゃなく、佐和紀が聞き返してくる。もう一度口にするほど野暮じゃない。周平は誤魔化すついでに佐和紀の口へ生チョコを運ぶ。それからもう一度、口移しにシャンパンを与えた。今度は舌を忍ばせる。
口腔内の体温でとろけたチョコレートを舌で受け渡し、シャンパンを混ぜ合わせた。何度か繰り返してシャンパンを運んでも、佐和紀は嫌がらなかった。自分のグラスをテーブルに戻し、周平の膝に乗り上げてくる。
甘い匂いが二人の間に漂い、一杯のシャンパンで佐和紀はほろ酔い加減を取り戻した。
欲望を押し隠して夜を待っていたのは、周平だけじゃない。
あれこれと文句をつけながら、佐和紀も待っていたのだ。自分の旦那が人には言えないことを強要すると知っていて、二人だけの秘密を望んでいる。
ディープなキスをしながら佐和紀の浴衣の裾を引き上げても、拒まれることはない。それどころか、佐和紀の方から吸いついてくる。目を伏せ、突き出した周平の舌の先をゆっくりとくちびるでしごく。
「ん……、はっ……」
我慢ができなくなったように腰をすり寄せられ、浴衣の下に忍ばせた手で肉づきのいいヒップを揉みしだいた。
「佐和紀……。おまえからのプレゼントが欲しいな」
「……な、に?」
キスに夢中になっていた佐和紀が、艶めかしい息をついて顔を離した。
手首を引いて寝室へ入ると、佐和紀の脈が早くなったような気がする。それを『期待』だと言うのは意地が悪い。どぎまぎさせ続けている周平のほうが何倍も罪が深いからだ。
ローズレッドのリボンのかかった平べったい箱は、掛け布団を開いてベッドメイキングされたシーツの上に置かれていた。
シーツは二枚重ねで、その下には防水シーツが敷かれている。それも静香が頼んでいることだ。運が良ければ、ベッドごと弁償せずに済む。
『運が悪いときは、ベッド代よりも奥さんに嫌われることを心配してくださいね』と言った静香の辛辣さを思い出す。『夫婦仲は金で繋げても、恋心は無理ですよ』と付け加えられたのだ。それは道理であり、真実だろう。
「……嫌な予感」
プレゼント箱を手渡された佐和紀の目が泳ぐ。
箱の雰囲気で中身がわかるほどになってしまったことを悲しむ表情で、リボンをほどく周平の指先を眺める。ふたを開けたのも周平で、佐和紀はリボンと同じ色の薄紙を剥ぐ。
中を見た瞬間、周平の予想通りに固まった。だから、世間話をする口調で言う。
「フランス製の高級レースだ」
「へぇ……、これがハンカチのふちどりなら、もっとましな反応できた……。でも」
一息ついた佐和紀は、指先でレースの肌触りを確かめる。
「あ、すごい……。いや、そうじゃなくて」
「着け心地ぐらいは確かめてもいいだろ?」
ぽかんと口を開いた佐和紀が顔をあげる。機嫌を伺う目で覗き込むと、頬に朱が差した。
「ずるいよ……。おまえ」
なにを考えたのか。惚れた弱みだと言いたげにため息をつき、佐和紀は踵を返す。黙ったまま、寝室から風呂場へ向かう。
すぐには追いかけず、周平は半開きになった引き戸を見つめる。
「周平……っ! さすがに、これはない!」
ドタドタと足音を響かせ、佐和紀が戻って来た。ドアを開けた顔は、ほんのりを通り越して真っ赤になっている。
「似合うから」
強い口調で答えると、帯を解いた浴衣の前を押さえた佐和紀は言葉を失う。わなわなと震えた片手には、高級レースが無残に握られている。
「だいじょうぶ」
「なにが? なにも大丈夫じゃない。バカじゃないの。ヘンタイ。ほんとに、おかしい」
思いつく限りの言葉を並べ立てる佐和紀にそっと近づき、殴って来ないことを確認しながら背中を促した。動揺した佐和紀は素直に足を踏み出す。風呂場へ戻されたことにも気づいていないのだろう。
鏡に映った自分を見て、ハッと息を飲む。
「脱がすな、やだ」
「んー……?」
聞こえないふりで、ボクサーパンツに手を掛ける。からだを寄せながら引き下ろし、壁に追い込んだ。
「周平っ……」
半ばあきらめながらも納得していない顔で、下着を握った手が胸を押し返してくる。
「もう何回も着てるだろ? おまえのサイズで作らせたから」
「それがヤなんだよっ。っていうか、これ、下着じゃねぇだろ」
「そうか?」
「真面目な顔したって騙されない……ッ」
「一度ぐらい、俺の好みにしてくれてもいいじゃないか」
真面目に抱き寄せて、下着ごと拳を握る。そっとくちびるを押し当てると、佐和紀は言葉を詰まらせた。
他の誰にも弱みを見せないくせに、周平の押しには弱い。そこもまたかわいいところだ。
「今までは、他の誰かのお仕着せだろう。……俺が、おまえのために選んだんだ。……見たくて。なぁ、佐和紀……」
足の間に膝を押し込み、片足をあげるように太ももの裏を撫でる。佐和紀の手から下着を抜いた。
「俺しか見ないのに、なにが恥ずかしいんだ」
「もっと、ちゃんと……布の、あるやつが……」
「そう言うなよ」
淡いピンクベージュのレースに足を通させながら、身を屈めた姿勢で見上げる。
「本真珠だ」
「……」
バカと言いかけた佐和紀が目を伏せる。柔らかくしなやかなレースを腰骨の下部まで引きあげた周平も、直視はせずに視線をそらした。
股の部分に布のないオープンクラッチで、その部分には真珠が連なっている。
「壁を向いて」
肩を押して反転させ、洗面台の上に置かれた箱からノンワイヤーの三角ブラを手に取る。あきらめた佐和紀は自分の肩から浴衣をずらした。その襟に指をかけ、周平が床へと落とす。
なめらかな背中と、男にしては細い腰が露わになり、割れ目に真珠を添わせた丸いヒップもさらされる。
ブラも周平がつけ、最後にたっぷりとした総レースのキャミソールを着せた。レースにヒップを覆われて少しは安心したのか、佐和紀が息を吐き出す。
その首に五連のパールネックレスをつけ、
「寒いだろう」
背中から抱きしめる。指はすぐに腕へとすがってくる。
その恥じらいが見たくて、振り向かせてキスをした。後ずさりながら洗面台へ寄り、互いの場所を変えるようにターンする。
「……っ」
舌打ちにもならない中途半端な音を出し、佐和紀がうつむいた。その顔が鏡に映る。
上品に輝くクリーム色のパールを連ねたネックレスも本真珠だ。髪や肌を傷つけないように、金具ではなく、リボンを結ぶタイプにした。どうせ、今夜しかつけない。
周平が想像した通りの悩ましさで、佐和紀はまなじりをきつくする。鏡の中の自分を見ようとはせず、くちびるを引き結ぶ。
今まで見た女装ランジェリーもそれぞれに良かったが、自分が選んだものには妙な感慨がある。これが一番だとはあえて言わず、周平はレースを撫でた。
洗面台に手を突かせて腰を引かせる。キャミソールの裾に手を入れ、鍛えられて丸く発達した肉づきを遠慮なく撫で回す。
「見る、な……」
「触る分にはいいのか」
「……もっ、うるさ……ぃ」
洗面台についた手が拳を握り、震えた腕の動きが全身に伝わる。初めてこの宿に泊まったときに贈ったダイヤのリングが左手で輝き、その存在感を目に留めた佐和紀から力が抜けた。
「きれいだ、佐和紀」
我慢できずに耳元へささやく。震える肌を辿るようにレースを撫であげて胸をさぐる。平べったいように見えて、胸筋がついている。女よりは外側にある乳首を緻密なレースの上から探すと、佐和紀の手が追いかけて来た。
嫌がるわけでもなく絡んでくる。
「変な、気分……っ」
怯えた声で訴えられ、周平は片手を腰のレースに添わせた。隠されていない象徴はすでに硬くなり始め、根元から撫で上げると震えて育つ。
「想像以上だ、佐和紀」
「言わなくていい……から……。んっ……ぁ」
肩にキスを落とし、鏡の中の妻を見る。
三年も一緒にいれば、心の内も掴める。それでなくても、もう何十回と繋がってきた身体だ。
「待ってただろう。俺に、ここを触られるの……」
やわやわとしごきながら、肩甲骨を吸い上げる。ブラの細い紐とは違い、キャミソールは肩の部分もレースだ。それもたっぷりと使い、前と後ろの部分が束ねるようにまとめられている。
「……周平」
頬ずりしながら肉の薄い背中をたどり、しごく手は止めずに愛撫を続ける。もう片方の手は佐和紀の指と絡めたまま、レースの上から乳首を刺激する。
なにもかも優しく扱うと、佐和紀のからだは熱を帯びた。周平の動きに合わせてよじれる仕草が、ランジェリーをつけさせていること以上に官能的な刺激になっていく。
「おまえは俺に、なにも贈らなくていい。こうしてるだけで、もうじゅうぶんだ」
「……ぁ、んっ……」
周平が浴衣の腰を押しつけると、二人の間に挟まれた小さな真珠が互いを刺激した。佐和紀の腰がもどかしく揺れ、周平はいっそう淫らに腰を動かす。
そこへ手のリズムも合わせる。鏡に映る佐和紀が、くちびるを噛んだ。快感に背をそらし、肩の甲をくちびるへ押し当てる。
快感を得ている表情は隠そうとしても隠しきれず、周平を危うい気分にさせていく。このまま抱いてしまいたい欲求と、じっくりと耽溺させたい欲望が交錯して、耐え切れずに自分の帯を解いた。浴衣を落し、下着一枚になって佐和紀を引き寄せる。 背中から抱き、キャミソールをたくし上げて、前をいっそう激しくしごいた。鏡の中の佐和紀が自分の指を噛み、片手でキャミソールのレースを押さえながら、しどけなく快感に落ちて行く。連なった真珠のネックレスが揺れ、
「んっ……、んっ……」
たっぷりとしたレースをまとう佐和紀は倒錯的だ。自分で眼鏡をはずし、弦を伸ばしたままで台に置く。
「も、ダメ……」
髪を左右に揺らし、腰をよじらせる。周平の指を濡らす先走りは、張りつめた性器全体に行き渡って、愛撫の動きをなめらかにした。
「あ、あっ……」
「イけよ」
ほんのわずかな冷徹さを見せると、佐和紀の身体が前に傾いだ。腰が律動して、周平の手筒の中で性器が跳ねた。
「くっ……、ん……っ」
佐和紀が息を詰めるのと同時に、びくびくと精液が漏れ出てくる。手のひらで受け止め、ゆっくりと最後まで搾り取ってから手を洗った。
「きれいにしてやろうか?」
乱れた息をつく佐和紀に声を掛けると、ティッシュに手を伸ばしながら首を振る。
「……口は、やだ」
「そう言われるとしたくなる」
「汚れる、から……」
「汚したくて着せてるんだ」
さらっと言って、佐和紀を抱き上げる。空調は効いているが、忍び寄る寒さが気になり、そのまま寝室へ戻る。
ベッドの上におろすと、佐和紀はからだを小さく丸めて転がった。
「明るいの……嫌だから。消して」
どんな声を出せば周平が動くかを無意識に知っている佐和紀のお願いには逆らえない。居間に続く襖を閉め、あかりを消す。ベッドサイドの淡いライトの中で改めて見た佐和紀は、悔しそうに憮然としているのがいっそうそそる。
「佐和紀、見せて」
手首を掴んでベッドへ押しつけた。からだを開いた佐和紀は、立てた膝をぴったりと閉じる。
髪がシーツの上で乱れ、胸元のパールが流れた。
可憐な雰囲気が涼やかな美貌の奥にちらつき、膝を掴んで開かせると、強引さにわなないた肌が粟立つ。
短いキャミソールの下に隠れた性器は見えなかったが、平均よりも薄い下生えがピンクがかった薄いベージュに透けていて卑猥だ。
「薄暗い方が淫靡だな、佐和紀」
上から下まで眺めていると、佐和紀はずり上がるようにして上半身を起こした。
「……見過ぎ」
足の間に両手をつき、あごを引く。柔らかな髪が額にかかり、周平は指先を伸ばした。撫でつけて、耳にかける。
「いつまでも見てるだけなら、それでもいいけど」
物静かな口調の佐和紀が手を掴んだ。引き寄せられ、くちびるが当たる。
「いいこと、してあげようか」
上目遣いに見つめられ、腰が痺れた。
男の欲望の深い場所まで突き刺さる佐和紀の眼差しは、涼やかな分だけ鋭くなり、どす黒い欲情で隠した淡い純情までを串刺しにする。だから、自爆する男たちは後を絶たない。
暴力と非合法が紙一重になった世界に暮らしていればなおさら、男たちの胸の奥には口にできない憧れが眠っているものだ。
仁義への憧れには、滅私奉公の覚悟と無償の愛も含まれている。
佐和紀に手を引かれるまま、ベッドへ寝転ぶと、下着が剥がれた。そこをよく見もしないまま、佐和紀が腰をまたぐ。
「……黙ってて」
口を開くつもりなかったくちびるに、佐和紀の人差し指が押し当たる。舌をそろりと出して、いたずら心で指の腹を舐めた。
佐和紀の指は逃げず、くちびるをなぞりながら、舌と遊ぶようにして口の中へ入ってくる。
目を細めた佐和紀はほんのわずかに微笑み、上半身を倒した。腰を柔らかくくねらせる。すでに反り返った周平の裏筋に、なめらかなレースがこすれた。
キャミソールの裾をゆらめかせた佐和紀は、艶めかしい媚態をさらに見せつけるように、周平の腰を太ももで挟んだ。


ドヤ顔で「本真珠」を誇る周平さんがプライスレスですね…。

ここまでと、続きは同人誌新刊でお楽しみください。通販も行います。

バレンタイン編『2・14』とホワイトデー編『3・14』の二本立てです。ラブラブです。同時発売は『SSの再録集』と大滝組長と佐和紀の『よいどれすぺしゃる』もちろん、岩下夫婦のよいどれラブも収録です。よろしくお願いします。