仁義なき嫁・淫雨編【あとがきモドキ】

『仁義なき嫁・淫雨編』をお読みいただきまして、ありがとうございます。
第三部はこのようなスタートとなりました。いかがでしたでしょうか。

淫雨とは、いつまでも降り続くうっとうしい雨のことです。
そんな雨に囚われながら、佐和紀は周りも見えず迷っている。そんなイメージです。

twitterでも散々書いたのですが、新シーズンの一作目は本当にプレッシャーが凄くて…。長編シリーズが途中で止まってしまったり、続きが出なかったりする理由がわかるような気がします。

第二部を始めるときも迷って、悩みました。
とにかく、盛り上がりに盛り上がって終わったシーズンの後ですから、読み手の期待値も大きいだろうと考えるわけです。
そこに、同じテンションのものは出せない。山は越えてしまっているので。
もちろん、高いテンションを重ねていくことも出来ますが、今回やってしまうと、次回は出来ないとか、いろいろ…ありますね。

なので、今回も滑り出しは緩やかに、でもドキドキも必要。
物語の進む道筋を示しながら、伏線も引いて…とやること盛りだくさん。
前回までのおさらいなんかも差し込みつつ、です。

さて、今回のあとがきモドキ。
作者の所感を、細切れに綴っておきます。
これからいだたく感想によっては、、お返事代わりに書き加えるかもしれません。

◎私はきっちりとプロットを作ってから書き始めますので、起こる事件は確定しています。主要な登場人物の心の動きもプロットを作る時点で『ある程度』は見えています。
それでも、書いていくと新しい感情が見え隠れします。
「あのときの、あれ。いまはこう感じているのか…」とか。

◎周平には周平の考え方があって、「佐和紀の考えが甘い」ということを彼はよくわかっているんでしょうね。
その上で、手元から離し、からかいながらも、どこかヒヤヒヤしている。

口出し、手出しをしないことは、優しさなのか、それとも放任なのか…。

そして、肝心なことを飲み込み、決定的な打撃にならないようにするところは、周平が持つ男の強さなんですが…、書いている私は女なので、「いるよね!こういう男!黙っちゃう人!!」ってイライラしてました(笑)。

でも、あれは優しさですね。
口に出した言葉は、なかったことに出来ないので。
言わない限りは、残らない。周平はこれからもぐっと飲み込んで…行くのかな~?どうだろ(笑)。

◎ラウンジのトイレでのアレは、周平なりの甘え方なんだと思うんですが…。
佐和紀はわかっているみたいだけど、あれって理解していいんかなー?(私個人はダメだと思うなぁー(笑))
二人にしかわからない機微があるようです。

◎佐和紀はチンピラに戻りたかったのかなと思いながら書きました。
いろんなことが面倒になってような気持ちも感じられて。
だけど、実際はもどれないんですよね、もうムリなんです。
それは群青編の終わりでも出ていたんですが、元に戻っても大丈夫だと思っていたのに、貧乏暮らしが身に添わない…みたいなところ。

◎いろんなことが重くなって出奔したけど、それしかなかったけど、佐和紀は失敗したのだと思います。
これしかなかったと前向きになるには、佐和紀のいる世界はシビアで。
ところどころで周平に逃げ込めたいままでとは違う苦しさが、辛かったですね。
成長するために、人はなにかを喪失していくわけですが、「俺のそばで」と言える時期は終わったと思い切れる周平が…。
いままで舎弟に見せてきた厳しさを、佐和紀にも見せている感じ。

成長するときに失うものって、いろいろあると思います。
例えば、恥をかくこと、誰かを傷つけてしまうこと、そういうすべてを自分で受け止めていくこと。

自尊心を削られながら成長することで、『自分』ができていくのか。

佐和紀は周平のそばで揺るがない土台を作ってもらって、いま、一人で外に出て、それこそ切磋琢磨しないといけないのかな。

と、他人事みたいに思いました。書いてるの、私ですけど(笑)。

◎ここに来て、舞い戻ってきた『旅情編』のエピソード。

あれは壮大な伏線だったのか…!

と、自分で思ったので、たぶん、そうではない(笑)。

それはそうと、佐和紀の母の思い出の曲は谷村新司さんの『祇園祭』です。出だしにお囃子も入ってますよー。

あれを佐和紀がいなくなってから一人で聞く周平…。
そして、『燃える秋』を読み直す周平。
佐和紀を鉾の上から見つめる周平。

かわいそうすぎて、かっこいい…。

◎周平はずっと「好いて添えない」という状態になることを恐れてきた人なんですよね。そんな関係は嫌だと思ってきたけど、やっぱり佐和紀のためには我慢してしまう。
一緒にいても心が離れてしまうよりは、一時的に離れても、先で道が交わることを選ぶ。そういう人なのかな。

◎今回が仁嫁の底になるといいなと思いました。これ以上、暗いことがないといいなって。

◎美園。
 佐和紀を狙い始めている雰囲気の美園…。もちろん真幸のことが好きですよ。好きだけど、珍しいものには手を出したい美園。

 真幸は気にしない。…気にして。

 今回は、佐和紀が悪いのかもしれない。

◎道元。
 私が言うのもなんですが、ちょっと「岡村のカノジョ気取り」か(笑)。

◎りっちゃんと堀田
あー、苦労が増えちゃったよね、諒ちゃん…。坊だけでもアレなのに。
佐和紀は堀田の改造されたイチモツが見たくて仕方がない。
他の人の、見たことないんですかね。ありそうなのにね。

◎直登
難しい。書くのがとても難しい。
よくわからない。なので、よくわからないまま、書いている。
彼自身にもわかってないので、これでいいと思います。
そして、読者さんにとっても、よくわからないままでいいのです。
そういうキャラです。
(本当にわからないまま書いているわけじゃないですよ…!)

◎最後に佐和紀が眺めている景色。
オークラからの景色です。そして、思い出している絵は東山魁夷さんの「年暮る」
ふたりで美術館へ行く岩下夫妻がエロいです。
(そういうことじゃない)

読み直していて気づいたんですが。
佐和紀は、夜とは言え、夏の京都を見ていても、あの冬の景色を思い出してしまうんですね。

そういう悲しく寒々しい気持ちなのかな、と思う。

でも、あの絵は、年末の静寂の中に、人々の暮らしを感じる絵なので。
ひとつ、灯りが灯る。そんな感じ。

がんばれ、佐和紀。がんばれ。

と思います。

◎とにかく、本編を書きながら、『頑張れ、頑張れ』と何度も思いました。成長するということは派手な出来事ばかりじゃなくて、みっともないような小さなコトの積み重ねでもあって…。
 そして、何歳であっても、そんな壁は存在する。

 でもって、佐和紀は頑張ります。
 
 次回作も、どうぞよろしくお願いします。

 2019年12月 高月紅葉