『仁義なき嫁・陽炎編』をお読みいただき、ありがとうございました。
リクエストをいただきましたので、今回もあとがきモドキとして雑文を書き残しておきたいと思います。
それはそうと、前回の天狼編は書かなかったんですね。
リクエストはいただいていたはずなので、時間がなかったかな?
タイミングを逸してしまったかもしれません。
さてさて、今回。
この陽炎編で、第三部の前半が終わりました。
折り返しは、この次の巻になるかなと思っています。
そして、また後半戦へ。
第三部の前半戦は、関西周辺のドンパチ(抗争)に絡んで佐和紀を成長させようという目論見だったのですが、当初の展開からは変更がいろいろありました。
と、言うのも……。
「このシリーズはBLですから!!」と気がついたんですよね。
マジメにヤクザの力関係や報復に次ぐ報復を書いても仕方ないし、おそらく読者さんは理解がついてこないですよね。ただでさえ、アウトロー的思考のはびこっている仁嫁界なので……。
なので、佐和紀の成長に焦点を当て、周平は細かく登場させて別居夫婦としても、ちゃんと書いていくことにしたのでした。もちろん、当初の予定でも、周平は出ているのですが。
佐和紀を成長させるという課題は、シリーズの早い段階から存在していました。
一度も周平から離れることなく人間的な成長をできれば良かったかも知れませんが、佐和紀はあまりに幼く、周平はあまりにすべてを受け入れてしまうので。
先日、群青編を読み直しましたが、周平の愛情もやさしさも、相手を堕落させる甘さを持っているような気がします。ただ自分のそばにいて笑っていてくれたらそれでいいと言うのは、支配欲も多分に含んでいるのかも知れません。
群青編において、ふたりの関係は相当あやういバランスになってしまいました。
あのまま、一緒にいることはできたけれど、互いを食い合ってしまう依存関係ができはじめていたように思います。なので、佐和紀は第六感でもって離れることを選び、周平もまた、佐和紀の意思を尊重するという名目の元、彼を行かせます。
このあたりのそれぞれの感情については読んでもらうのが一番いいですね。
人の気持ちははっきりと言い切ることが出来ないので、感じてもらうのがいいように思います。
以前、twitterスペース(Twitter上で、音声通話を公開するシステム)で話したのですが……
「周平は○○になりたいらしいんです」というお話。
今回で、答えが出ました。正解は「髪結いの亭主」です。
要するに、奥さんに養ってもらって遊んでいる旦那。周平は一歩下がって、若い嫁を眺めていたい気分なのだと思います。
このことを佐和紀に告げるシーンでは、ふたりは当然のように映画「髪結いの亭主」の話をしています。
ふたりで観たことがあるのかな……と思います。ちなみに私は見ていません(笑)。
周平の旅行カバンについて。
ローションやコンドームが入っているのですが、これを用意しているのは支倉です。
もしくは、静香さん。
重たいと思うのですが、まぁ、間違いなく支倉の嫌がらせです。
でも、すぐに新幹線に飛び乗ってやって来たのだとしても、周平はひとりで移動しませんので、もちろんカバン持ちが持っていたと思います。支倉かも知れない……。
今回、ふと周平が言い出したこと。
岡村と行った宮島旅行をひそかに根に持っているんですね。
私が驚いてしまいました。
佐和紀には、早く一緒に行ってあげて欲しいと思います。
直登と理玖を連れていこうと言う周平の優しさ……。
佐和紀の弟分や子分を、一歩離れてきちんと受け入れているんでしょうね。
(自分の弟分のように……といま書きかけましたが、やめました。それは違いますね。佐和紀の領分は尊重しても手出ししない気がします)
竹生島のこと。
あの「かわらけ投げ」は絶対通せません。私、知ってる……!
嘘っぽいからハズしたほうがいいのではと最後まで悩みました。
でも、いまの周平は無敵なので、通ってしまってもいいかなと思って(笑)。
最後にどこへ小旅行させるかも思案しました。元は、嵐山にある「星のや」にしようと思っていたのですが、嵐山ばっかりに行ってますしね。
私が行った旅行先のなかでも五本の指に入る場所を選びました。
そして、琵琶湖周航の歌。
旧制高校の生徒が作った詩がとても美しい歌で、学生歌です。
佐和紀の好きそうな感じ……。
そろそろ、最大のトピックについて。
桜川&由紀子の退場です。
本来の予定では、桜川は病状悪化のままで真柴にイスを譲るつもりでした。
でも、前作の天狼編を書いたあたりから、今回の展開が出てきて……という感じです。
由紀子についての感想もいろいろいただきました。
意見が分かれていて、大変に興味深いです。
桜川の情念だとか、男社会での限界だとか。
あまりヒロイックにならないように気をつけて書き込みましたので、ごく普通に受け取っていただいて問題はありません。正解はありませんので。
でも、このあたりの解釈はさまざまなので、ほかの方の意見を聞くのも面白いですよ。
光を当てる方向によって、まったく違う人間像になります。
由紀子について、いままで言わずにおいたことがあります。
それは「彼女の嗜虐性に理由をつけない」ということです。
たとえば、女性としての悲しい過去があるとか、うまく行かなかったことがあるとか。
そういう免罪符を絶対に作らないと決めていました。
由紀子は、あのままで、ひとりの女であり、人間であり、人生です。
なにの理由もなく悪人で強欲。
周平を見つけて堕としたけれど、悪のサガに気づくこともなく、ヤクザとしての開花はおそらく京子の手によるものと思います。もしくは岡崎か。
そして、男として、本当に成熟していくのは佐和紀を愛してからなので、由紀子はそのあたりで、やっと自分がなにも手に入れていないことに気がついたのかも知れません。
由紀子も永遠に若く美しくいられたら、ヴィラネス(ヴィラン)として成長できたのかも。
と、思うこともありますが、そういうことも含め、彼女には彼女の葛藤があったと思います。
特に、佐和紀が現れてからは。
あと、道元はもっと大事に使うべきだったと思う。
男性なのに女性性を持っている佐和紀と、女性なのに男性性を欲する由紀子は、わりと面白い対称物なのですが、スポットを当てることはありませんでした。BLなので……。
それでも、BLにおいての最大の敵役が女性と言うのは珍しいのではないかと思います。
いい悪役をなくしてしまいました。
ほんと、今後はどうしましょう(笑)
いただいたマシュマロに、
「周平の心には1ミリでも切なさがあるのでしょうか?」
という質問がありました。
さぁ、どう思われますか?
答えは本編に書いています。と、思いましたが、周平視点じゃないですもんね(笑)。
でも、天狼編あたりから、周平はもうはっきりしています。
由紀子のことは自分の領分ではありません。すっかり佐和紀に渡しています。
岡村も同じく佐和紀の領分なので、ぶつけないで欲しかったと思いながらもあきらめています。
いまとなっては、岡村がどんな使い方をされても、それは佐和紀の勝手なんですよね。きっと。
佐和紀に譲ってしまったからこそ、少しだけ惜しいのかな……?
そのあたりは、周平なりの感情がありそうです。
前回から世話係に就任した平嶋理玖は、直登との相性が良くてほっとしました。
元兄貴分の津田を気に入ってくださった読者さんがいらしたので、彼もまたどこかで出せたらと思います。一本気ヤクザ。私も好きなタイプです。
かつて石垣に勉強を教わっていた佐和紀が、今度は理玖の勉強を見守っているのが感慨深いです。そして、直登にハリーポッターを読み聞かせしている理玖の可愛さ&やさしさ……。尊い。見た目はイカツイんですけどね。
直登は横浜帰還へ同行するのか。
そのとき、知世は戻ってくるのか。
いろいろと悩みどころも多いのですが、キチンキチンと話を進めて行きたいと思います。
いま、京子さんも横浜にいないですからね……!
最後に、これからの執筆予定について少し。
2023年は番外編を書いておきたいと思うので、本編は後半に一本の予定です。
その代わりに番外編をいつもより多く発表したいです。
で。2023年中に翌年のための仁嫁本編を書いて、また年に2冊ペースで第三部を2~3年の内に締める予定……!
もちろん、第四部はあります。
これまでに広げてきた風呂敷を、第三部のラストできっちり畳みたいのです。
(佐和紀の過去を問われなければ、広げなかった風呂敷なのですが……)
そして第四部はのんびりとした第一部の雰囲気に戻ります。
いつも買い支えてくださっているみなさん、ありがとうございます。
積ん読であっても、発売日付近に購入していただけることは大きな励みになります。
そして、感想をくださっているみなさんからは、心の栄養分をいただいています。
またよろしくお願いします。感想、本当に嬉しいので!!
高月紅葉
【追記】
道元についての質問がありましたので、追記しておきます。
「道元が由紀子の一件に関わったかどうか」についてです。
私は、内容についての解説はするべきではないし、それぞれの解釈でいいと思っています。誤解も含めて「読む」と言うことですから。
と前置きをしておいたところで、質問の答えはNOです。
考えてみてください。道元は、佐和紀が岡村に命じて監視下に置いています。その道元がもしも佐和紀の知らないところで由紀子を追い込んでいたら、それを岡村が知らなかったら大問題です。岡村も、道元に対して怒ると思います。現状のふたりの関係からして、道元が岡村の立場を悪くさせることはまずありません。
でも、まったく知らなかったわけではないので、居場所を掴むことができたと思うのですが、関与してない以上は道元に罪はありません。ここを問いただすのは佐和紀の仕事でないですね。
この質問はいくつもいただきました。その中には佐和紀から道元への平手打ちは、裏切りが原因だと思っていたのに……というものもありました。
これは前後を読めばわかるのですが、由紀子の状況を道元が喜んだからです。痛めつけられたのを見て嬉しそうに戻ってくる。その精神のアンバランスさ。そして、平手打ちにされて「蹴り飛ばさなかっただけ、俺にも躾が行き届いた」と言ってのけるところ。それ以前にも、始末することに前向きでしたしね。そのあたりの価値観が佐和紀と合わないんです。
佐和紀に平手打ちにされて驚いたり怒ったりしないところにも道元の異常性があるんですが……。主人公の佐和紀も平然と受け流してしまうし、私も主題から逸れるのでわざわざ書かないので、今回、追記しておきました。
ちなみに書かない理由は、暴力・残虐に対して描写することになるからです。これらの表現は刺激的で、一種の快感や共感を呼びやすいので、できる限り、注意深く扱っています。
【20221230】